帰り道に口元がほころんでくるような店
早朝便(LCCですけどね)で発つときに成田に前泊するのは億劫だったのだが、この「さわらや」を知ってからはむしろ楽しみになっていて、何ヶ月かに一度のペースで通っている。
地元では有名な大箱のようで、この日は20時に覗いてみたが満席だったので、他のバーで時間をつぶしてから21時半に再度訪問。
うまい具合に客が捌けている。
自分はいつもカウンター(5席ほど)の、眼鏡をかけた温和そうな大将(?)が黙々と仕事をしている前に座る。
熱燗を頼むと、今日の突き出しはあん肝だった。
クリアな味の滅法旨いもので、「これは贅沢な突き出しだねぇ」と声を掛けると、「ウチは吊るし切りをやってますんで」と天井から垂れ下がった鎖を指さされる。
なるほど、それならこのあん肝のすっきりした味わいも納得出来る。
一人だと鍋は頼みにくいが、もしどぶ汁をやっているのなら無理しても試してみたいものだ。
いつも注文するのはベーシックにマグロぶつ、モツ煮込み、漬け盛りといったもの。
一人客はこういう定番ものでだらだらと飲むのがいちばんよい…と書くと、味が大したことなさそうに思えてしまうだろうが、これがそれぞれ素材の持ち味を上手に引き出した逸品なのだ。
ただちょっと季節感に乏しいので、今日何か旨いものは?と訊ねて、キンキの一夜干しも貰う。
いい塩梅に水分が抜け、キンキの甘さや香りが十分に味わえる。旨い。
肴が良ければ酒も素晴らしいのがこの店の特長。
日本酒の品揃えは驚くべきもので、優に100や200銘柄はあるのではないか。
さらに好ましいのが、純米だろうと吟醸だろうと、客が望めば燗をつけてくれるところ。
吟醸は冷酒で飲むもんだと説教臭いことを強いる居酒屋が多い中(…まったく、余計なお世話だ)、この鷹揚さはどうだろう。
自分はいつも山形の住吉を熱くしてもらう。がっしりとした骨太の辛口が、ここの肴にぴったり合う。
21時半から1時間ほど、先程の繁盛ぶりからエアポケットのように客が減った(笑)ので、けっこう話をすることが出来た。
自分が大将だと思っていた人は従業員(江口っちゃんと呼んでください、とのこと)で、店内をウロウロしていたオジさん(失礼!)が実は店主だった。
吉田類氏にはすでに取り上げられたが、太田和彦氏はまだ来ていないそう。
名店が広く世に知られるのは喜ばしいことだが、そうなればますます入りにくくなるだろうな…とも思う。
この店の魅力は、まだ一端しか味わえていない。客層が荒れる前に急がなければ〜(笑)。
22時半頃から再び客が入り出すのを潮に引き上げる。これから第二波の時間帯なんだそうだ。
勘定は4200円。
帰り道に口元が自然とほころんでくるのが自覚できる。そんな店。
fistophobiaさん 2014-12-07